3.挫折
お疲れ?馬は正直...
1997年12月29日(第48回全日本3歳優駿G2:川崎競馬場)
川崎競馬場である。初めてである。電車では乗換えが多いので、車で行くことにした。早めに競馬場へ向かい、高速を降りて最初に目に付いた駐車場にしたが、そこは競馬場の裏手であった。駐車場代は500円であった。大回りをして正門から入ると馬場の中に車が見える。ここは馬場の中に駐車場がある珍しい作りだ。
前日、新井さんと連絡を取り、今回は水正さんが来られるとのことで、競馬場で落ち合う約束をした。競馬場に着いてまずは場内の観戦ポイント、撮影ポイントをチェックする。すると後ろから奇矯な声で、私を呼ぶ声。乗馬クラブのKさんである。報道関係に知り合いがいる友達と二人連れで来たとのこと。彼女はミッキー(松永幹夫騎手)のファンである。今日のレースに出てくるらしい。報道関係のコネでパドック等へも入れるそうでうらやましい限りである。Kさんはこれから写真撮影の許可を貰いに行くとのこと。知らなかった。川崎をはじめ南関東は許可が要るそうだ。大井、船橋では見るだけだったのでそんなこととはつゆ知らず、知らずに写真を撮って怒られるところだった。
ここで水正さんと電話連絡を取ると馬主席にいるとのこと。撮影許可を貰いに行くついでに、馬主席の生産者に会いたいのだと言って通行許可の交渉をする。粘った挙げ句許可を頂いた。「やった。中央ではこうはいかないよ。」 早速、馬主席へ。そこには水正さんと千葉師ご夫妻がいらっしゃった。挨拶もそこそこに先日の東北3歳チャンピオンの話題で盛り上がる。馬主席のど真ん中には社台の吉田氏とお仲間がでんと座っている。我々は隅でひっそりと、静かに観戦である。千葉師はミヤシロブルボンが前回より体重が減っていることをしきりに気にしている。「あれほど、(調教を)強くやるな。軽くしろと言ったのに全然守っていない」と怒りを通り越してあきらめの様子。ずっとほぼ月1で出走していたのに、中1週のローテーションはきついなあと不安がよぎるのであった。
今日の出走メンバー
馬 馬 名 斥 人 騎 手 体重 増減 所 属 1 シャンハイリーダ 54 5 石崎 475 +1 川崎 2 エスケイタイガー 54 2 佐藤祐 506 +2 船橋 3 ナイキバビロン 54 10 早田 454 -5 大井 4 トウカイハリケーン 54 11 森下 488 0 川崎 5 コンゴウビジン 53 7 松永幹 435 -11 栗東 6 アグネスワールド 54 1 武豊 495 +1 栗東 7 インテリパワー 54 9 渋谷 512 -10 北海道 8 ラインウイナー 54 3 千田 497 +2 栗東 9 ミヤシロブルボン 54 6 菅原勲 453 -18 岩手 10 サパースリジェント 54 8 田辺 473 +6 川崎 11 マイネルクラシック 54 4 佐藤哲 454 -8 栗東 (ダート1600m 天候:晴れ 馬場:良)
水正さんと装鞍所へ出向く。装鞍所は出走馬の体重測定、鞍着け、診断等を行うところだ。アグネスワールドの森師も現れて武豊騎手と談笑している。ここで鞍をつけた馬は暫く引き馬をされた後、パドックへと向う。装鞍所のミヤシロブルボンはいつものように首を若干下げておとなしく歩いている。特に馬体がガレた様子もない。しかし、アグネスワールドはすごい馬体だ。水正さんもあっけに取られている。いよいよ、パドックへ。いつのまにか現れたKさんが小さく「ミッキー〜」と呼んでいる。我々はブルボンの馬体重が気になってそれどころではない。しかしパドックに表示された馬体重を見て愕然とした。
:「え!453kg!18キロ減ですか。ずいぶん減っちゃいましたねえ」
:「う〜ん。減ったせいか妙に元気がないねえ。これは難しいかなあ」
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パドックでこちらをチラチラ | 返し馬 |
アグネスワールドの馬体を目の前で見たせいか、水正さんも弱気である。パドックをまわるミヤシロブルボンは気のせいか、我々の前を通る度にこちらを見て何かを訴えかけるようであった。側でTVK(テレビ神奈川)か何かのレポーターが「...最後に穴馬として、ミヤシロブルボン...」と言っているのが唯一の心の支えであった。
馬主席よりも近くで応援したい。競争後、帰ってくる馬を出迎えたいという気持ちでレースは1コーナーで観戦する。
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スタート.中段で | 1コーナー |
スタート。中段待機?知っての通り、川崎競馬場は左回りである。1コーナーを回るミヤシロブルボンは明らかに外へ外へと膨れている。鞍上菅原騎手が手こずっているのが良く分かる。最終コーナーを回ってなお中段のまま。直線では見せ場もなく後方に置かれてしまった。結果はアグネスワールドの圧倒的勝利。さすがは良血、器が違った。ミヤシロブルボンは2.0秒差の9着。初めての大敗を喫してしまった。引き揚げて来た菅原騎手も寂しそう。声をかけるのもはばかられた。でも、馬寄せに返ってくるのはミヤシロブルボンが一番であった。ほんとに新井さんの馬はレースの後馬寄せに帰ってくるのが早い。馬は正直だ。特に新井さんの馬はみなレース後に馬寄せに帰ってくるのが速い。ホント。
レース後、水正さんから岩手競馬マガジン「テシオ」の松尾編集長を紹介された。岩手のトウケイニセイ(菅原勲騎手が主戦ジョッキーだった)をずっと追っていらっしゃるそうだ。今年新井さんの牧場でもトウケイニセイの産駒が2頭受胎しているそうで、新井さんの牧場を取材されたそうだ。グリーンチャンネルの地方競馬番組の解説者の栗原さんもミヤシロブルボンについて菅原騎手にインタビューしていた。
レースが終わって、水正さんと競馬場設置の厩舎にミヤシロブルボンをねぎらいに行った。2着に入ったインテリパワーの関係者が大喜びで盛り上がっている。そのそばで、ミヤシロブルボン担当の厩務員さんが藁で熱心に体を拭いてやっている。
:「今回は馬体減が全てだったね。でも、この仔はこの後、美浦の山田要一厩舎に入厩する予定ですよ。中央に行ってからも応援してください」
:「え!そうですか。美浦ですか。じゃあクラシックを目指しましょうよ」
:「そうなればいいですけどね。でも中央で通用しなかったらまた岩手に戻すつもりらしいですよ。これだけ活躍する馬はうちのような牧場ではなかなか出ないからね。がんばって欲しい」
千葉師も「この仔はこのまま岩手競馬に置いておけばもっと活躍できるよ。何も中央に持っていくことはないのに」と、残念がっているそうだ。転厩という話を聞いて、厩務員さんが一生懸命手入れをされているのが何だか哀れに感じた。ブルボンとももうすぐお別れだ。ずっと面倒を見てきたことを回想しているのだろうか。これまでのレースを思い出しながら黙々と作業を続けている。走った後も特に異常はないようだ。良かった。筆者も「ごくろうさん。これからも故障せずにがんばれ」と頭を撫でさせてもらってその場を離れた。
よ〜し!応援するぞ!今度は中央だ!