2.雄飛
週間競馬ブックを毎週買って競馬の動向はチェックしている。12月もそろそろという頃、地方競馬の欄に水沢で行われる東北3歳チャンピオンの記事。よく見るとミヤシロブルボンが出走予定とのこと。居ても立ってもいられず新井さんに電話をして確認すると、やはり登録されているようだ。新井さんは慎重で、出られるかどうかは分からないと言う。確かに馬の事だからいつ病気や故障で出走できなくなるか分からないから、慎重になるのは当然である。しかし私は気楽なもので絶対出ると確信したのである。さらに、ここでは勝てるだろうと根拠も無い確信を持ってしまい、自分自身も水沢への出走を決めたのである。
よし!応援しに行くぞ!
東北の雄、勇み立つ...
1997年12月14日(第11回東北サラブレッド3歳チャンピオン:水沢競馬場)
中央ではスプリンターズステークスで盛り上がっている時に何を好き好んで水沢まで行くのでしょう。朝8時に東北新幹線に乗って水沢江刺まで。前日、新井さんのお宅に電話すると新井さんご自身が水沢に来られるとのこと。ますます確勝を期してのことだと心強く思うのであった。競馬場で待ち合わせると約束したけれど、果たして会えるかしらと少々不安なまま水沢江刺駅からタクシーで競馬場へ。水沢競馬場は北上川の河川沿いに位置しており、駅からでも歩いて行けそうだ.。地方競馬場は大井、船橋しか行ったことがない。まったくの地方というのは初めてである。
競馬場のインフォメーションで新井さんを呼び出してもらう。なかなか、新井さんが現れないので少々不安な10数分が過ぎた頃一人の老紳士が現れてインフォメーションの女性に話し掛ける。私の名前を口にされるので話し掛けると新井さんの代りに面会に来たとのこと。この方は小西元調教師で、今は御子息に厩舎を任せておられるとのこと。小西氏に連れられて3階の馬主席に案内され観戦となった。新井さんは近所の牧場の方と2人連れであった。この方も自分の生産馬が前日の土曜日に出走するということで来られたのだが、見事1着であったとのこと。幸先いいねと皆で盛り上がったのだった。
今日の出走メンバー
馬 馬 名 斥 人 騎 手 体重 所属 1 ファンクラップ 55 7 前野 480 上山 2 モリユウコバン 55 9 山崎 451 岩手 3 キャニオンビューチ 54 10 三宮 438 岩手 4 ニアークファントム 54 2 榎 424 新潟 5 オノユウクイン 55 8 小林 409 岩手 6 マルハチラグビー 55 5 小国 473 上山 7 ウエストサンロード 55 6 関本 468 岩手 8 ミヤシロブルボン 55 1 菅原勲 471 岩手 9 チヨノローマン 55 4 森川 490 新潟 10 ロイヤルスター 55 3 西 454 岩手 (ダート1600m 天候:曇り 馬場:不良 )
:「新井さんブルボンは勝ちますよ。この競馬新聞と競馬場のパンフレットを見てください。どれも◎本命ですよ」
:「いやあ勝ってくれるといいがなあ。何が有るかわからんからなぁ」
事実馬場は不良、水が浮いている。この時期東北の競馬場は雪のせいで不良が多いそうだ。ミヤシロブルボンは新馬、第2戦と不良馬場で勝っているので大丈夫だろう。新井さんの不安はよくわかる。「競馬に絶対はない」。いままでその言葉を何度実感したことか。でもその言葉をぐっと心の奥に押しやって顔では笑う私と連れの皆であった。
競馬新聞を良く見ると、8レースに「マッケンスワロー」が出走するではないか。マッケンスワローは結局中央では勝てずに、地方競馬に転厩していたのだった。競馬ブックの記事を今思い起こしてみると確か水沢に転厩だったはず。この日に出走してくれるなんて何という偶然だろう。
:「新井さん!マッケンスワローですよ、8レースにマッケンスワローが出ますよ」
:「え!そうかぁ。そうかぁ」
それまで馬主席にじっとしていた新井さんが急にそわそわしてパドックを見に行ったのは言うまでもない。一緒にパドックで馬を見る。「いやあ。いい馬になったな」。久方ぶりの愛馬を見る目はやさしく、暖かであった。結局、レースは4着で残念だったが、水沢に来て2勝しているのでもう少し頑張れそうだ。
さて、ミヤシロブルボンである。新井さん、小西さん、連れの方とそろってパドックに降りた。私にとってははじめて実物を見るミヤシロブルボンである。栗毛の後肢2白。パドックでは落ち着いている。貫禄すら漂っている。寒さのせいか汗をかくこともない。歩様もしっかりしている。体重は471kgと前走から7kg増えたが成長分だろう。完璧だ!小西さんが「寒いからもう、上に戻ろう」と言う。もうちょっと見たいと不満そうな新井さん。しぶしぶ馬主席に引き上げていった。私は写真を撮るために下に残る。
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パドックで厩務員さんと |
スタート。私は写真を撮るのに集中して途中を良く見ていない。ただ、4コーナーを回ったところでミヤシロブルボンが抜け出してきたら、写真をとりながらも、もう自分でガッツポーズが出ていたことだけははっきり覚えている。あとで聞いたところによると、馬主席では小西さんをはじめ、周りの馬主さんたち皆がブルボン本命・大丈夫と言っていたのに、新井さん一人が「大丈夫かなぁ、いやわからん」とぶつぶつ不安を唱えていたそうだ。しかし好位3番を追走して直線でハナに立ち2着のマルハチラグビーを突き放す完勝だったそうだ。結局2馬身差の楽勝。ミヤシロブルボンがゴールしたとき、新井さんは暫く呆然とつっ立ったままで、まるでその場で御昇天されたのではないかと思わせたそうだ。新井さん今度は、「こんなことは牧場やってて初めてだぁ。生きててよかったぁ」が口癖となっていた...
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直線では独走 | 1着ゴール |
以後は優勝セレモニーまでの夢のようなスケジュールであった。まず調教師の千葉博師も入っていただいて口取り写真を撮る。筆者もどさくさに紛れて関係者ブースに入れてもらい写真に入らせてもらった。チャッカリしたものである^^; その優勝パネルは我が家の宝として飾ってある。さすがにウイナーズサークルでの優勝式典は側で見ているだけであったが、1頭の重賞馬を出すだけでこんなにうれしいとは想像もできなかった。馬主の宮崎四郎さんもお喜びの様子。よかった。よかった。(でも優勝ゼッケンをどさくさに紛れて持っていったカップルは一体誰?)
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初の口取り写真 |
この後、川崎の全日本3歳優駿に出走予定とのこと。中1週か。ともあれ...
よし!次は川崎。応援するぞ!