6.試練
成長を祈る...
前走の関越ステークスが終わった後、次走は絶対中山のユニコーンステークスだと確信を持っていた。あいにく以前から北海道旅行の計画を立てていたので、残念ながら今回は目の前で応援はできない。北海道行きは恒例の日高訪問である。もちろん新井さんの牧場を訪れるのが主目的である。出発時点で既にユニコーンステークスにミヤシロブルボンの登録があることは分かっていたので、今回は新井さん一家と皆でミヤシロブルボンを応援しようと勇んで北海道に向った。
直前にナリタブライアンが胃破裂で安楽死処分にされた。どうやら腸捻転が原因らしい。牧場の人に聞いた話では腸捻転になるとその苦しみは見るに堪えられないものであるらしい。近年最強の馬であっただけに惜しいものだ。ダービー、有馬記念は生で見させてもらったがほんとうに強い馬であった。去年CBスタッドで見た姿が私にとっては最後になってしまった。残された2世代の産駒に活躍してもらいたいものだ。ご冥福を祈りたい。
1998年10月3日(第3回ユニコーンステークスG3:中山競馬場)
午前中は静内のレックススタッド、静内SS、優駿SSを訪問。お目当てはそれぞれエイシンワシントンとサクラローレルとマヤノトップガン。皆元気であった。午後3時までには新井さんの牧場に帰らなければならないので、静内のWINSにて応援馬券を少々購入。その足で門別に帰った。
新井昭二牧場の分場厩舎に行くとまだ皆さん作業中。こちらものんびりと馬の写真を撮っていると皆さんさっさと先に帰宅してしまった。見逃しては大変だ。
:「レースの応援に帰るよ〜〜っ」
:「は〜〜い。すぐ行きます」 こちらは人懐っこい牝馬達に言い寄られて(頭をなでてくれと頻りにすり寄ってくる)嬉しいやら恐いやら。
新井さんの自宅には皆さん勢揃い。新井さんと水正さんはどっかと座って観戦。水正夫人はテレビを見ていられない様子。新井昭二牧場でもグリーンチャンネルを見ている。これは牧場の必須アイテムである。1日中馬に浸かっている状態だ。本音を言えば私もそうしたいのだが。
今日の出走メンバー
馬 馬 名 斥 人 騎手 体重 増減 1 イワクラスキ 56 9 吉田 512 0 2 ミヤシロブルボン 56 6 大塚 474 0 3 パラダイス 56 10 横山賀 460 +6 4 ゲイリーコンドル 56 3 柴田善 512 -2 5 ウイングアロー 56 1 南井 448 -2 6 サンクスメモリー 56 11 田中剛 454 +2 7 トウショウコナン 56 8 横山典 482 -14 8 ニホンピロジュピタ 56 武豊 取消 9 アイアムザプリンス 56 4 的場 484 +4 10 ロバノパンヤ 56 2 蝦名 468 -8 11 イヴニングスキー 56 7 内田利 476 -7 12 マイネルクラシック 56 5 江田照 462 +2 (ダ1800m 天候:晴れ 馬場:良)
さて、ニホンピロジュピタが直前回避して、11頭立て。1番人気はウイングアロー。去年タイキシャトルが勝った菖蒲ステークスから、名古屋、旭川と3連勝した強豪だ。2番人気ロバノパンヤはウイングアローに菖蒲ステークスで完敗している。ウイングアローは強いのだろうが、去年のタイキシャトルのような絶対の馬はいないのではというのが率直な感想。ミヤシロブルボンも前々走のような先行策で行けば勝機はあるのではないか。
パドック。私自身テレビで馬の状態が分かるほど馬を見る目はない。実物を見ても分からないのに、雰囲気がなかなか伝わらないテレビではなお更だ。しかし、今回のミヤシロブルボンはうるさい。関越ステークスの時のように入れ込んで、厩務員さんをてこずらせている。まだ大人に成りきっていないのだろうか。
レース。スタートは良好。そのまま行くのかと思ったら、控えてしまった。5、6番手を行くが、最内で出るに出れない状態だ。これではブルボン嫌気がさしてレースにならないのではと不安がよぎる。案の定、3角、4角とずるずる後退する。なんだか周りからどっと寄られて怖じ気づいてしまって、引いた感じだ。観戦した皆は声援の声も出ない。見る間に後退して10着だった。レース後の皆の感想は位置取りへの不満に集中したが、馬にやる気が無かったのが最大の原因ではと思わせた。
声も無し...
1998年10月17日
10月17日の夜。所用で競馬新聞を買ったのは夜9時を回っていた。しかも、その時は電車の中。いつものように知り合いの馬の出否をチェックするため各レースの馬柱を何気なく見ていた。!!!なに!?東京10レース秋嶺ステークスに「ミヤシロブルボン」の名前があるではないか。「え〜。うっそ〜」暫く電車の中で呆然とその字を見つめてしまった。
今週の「週間競馬ブック」ではミヤシロブルボンは大井のスーパーダートダービーに登録とあった。補欠ではないし、次は10月30日出走が確実と思っていたため、にわかには信じられない思いであった。新聞の山田師のコメントにはこれを使って大井に行くとか。厩舎の考え方があるから部外者があれこれ言うのは差し控えるが、ダートとはいえ1,200mにミヤシロブルボンの適性があるとはとても思えない。今の状態では快速馬が集まるJRAのスプリントレースに対応できないだろう。
1998年10月18日(秋嶺ステークス:東京競馬場)
まさか今日出走するとは思っていなかったので、今回も生で応援はできない。移動の車の中でラジオ観戦となった。
以下、伝聞が混じっているので悪しからず...パドックはあいかわらず。新井さんはパドックでボロ(馬糞のことです)をする馬は緊張が無いから絶対走らないという信念の持ち主である。私もほぼ賛成である。ところがである。新井さんは見てしまった。ミヤシロブルボンが3度もボロをするのを。これを見た新井さん「だめだ。ミヤシロブルボンは駄馬になってしまった」と、嘆き悲しんだそうだ。心配しないでください新井さん。ミヤシロブルボンは毎回、ボロをします。水沢以来、私が実物を見たパドックでは必ずしていました。水沢ではそれでも勝ったのですから...
ということは、ミヤシロブルボンがパドックでボロをしなくなったときが本当に成長した時であろうか?
今日の出走メンバー
馬 馬 名 斥 人 騎手 体重 増減 1 ミヤシロブルボン 52 11 大塚 470 -4 2 ホーマンスピリット 53 2 吉田 466 0 3 タマモリズム 52 13 橋本広 474 0 4 クイックミスワキ 57 3 岡部 452 +8 5 ニシノオトヒメ 52 10 田中勝 450 -6 6 カネショウテュータ 55 6 柴田善 480 -10 7 フェイマスケイ 57 12 嶋田 504 +4 8 ビコーミニスター 55 9 坂井 442 -6 9 シロヤマランディ 56 8 横山典 500 -4 10 スイートバンブー 53 5 菊沢徳 458 +2 11 ゴールドジャパン 53 14 沢 456 -8 12 マチカネライメイ 57 7 藤田 484 0 13 シルキーブラスト 56 4 上籠 524 -2 14 レイズスズラン 58 1 蝦名 496 0 (ダ1200m 天候:晴れ 馬場:重)
レース内容については何も無い。12着が全てである。スタートから後方のままで、レース実況にミヤシロブルボンの名前すら呼ばれなかった。レース自体は5ニシノオトヒメ−6カネショウテュータのヤマニンゼファーで安田記念を勝った騎手同士で決まって1万8千円の万馬券というのが後の世に語り継がれるだけであろう(^^;
中1週、中1週で大井のスーパーダートダービー挑戦ですか。ナイターという不安要素はあるものの、せめてパドックでは落ち着いて欲しいものだ。
次はボロをしないように...
1998年10月30日(スーパーダートダービー:大井競馬場)
新井さんに全権を委任されて大井競馬場に乗り込んだ。仕事を終えてモノレール経由で競馬場に着いたのが18時半頃。久しぶりに大井に来たので勝手が分からず、主催者にコンタクトを取れたのは19時過ぎになってしまった。既に前のレースのパドックが始まり、ぐずぐずしているとメインレースのパドックが始まってしまう。ドタバタとパドックに向った。大井のパドックは狭いのでレース関係者しかは入れない。私は一般入場者と一緒に掲示板の反対側の位置を陣取った。場所確保は中央と違って非常に楽である。それでも、今日はいつもに比べて異常に人が多いとは警備員さんの弁。
今日の出走メンバー
馬 馬 名 斥 人 騎手 体重 増減 所属 1 スピードラッシュ 57 6 張田 541 +4 大井 2 アイディアルクイン 55 7 藤村 446 -3 大井 3 ロバノパンヤ 57 3 蝦名 482 +14 栗東 4 ナナヨーウォリアー 57 2 武豊 470 +12 栗東 5 リリーローズ 55 11 新原 413 +5 佐賀 6 ランサーボーイ 57 8 的場文 450 +1 大井 7 ウイングアロー 57 1 南井 450 +2 栗東 8 マイネルクラシック 57 5 佐藤哲 472 +10 栗東 9 モンスター 57 4 桑島 480 +4 川崎 10 エビスヤマト 57 10 向山 403 +4 新潟 11 ミヤシロブルボン 57 9 大塚 471 +1 美浦 (ダ2000m 天候:晴れ 馬場:良)
パドック開始。ミヤシロブルボンは最後尾である。今日は2人引き。既に汗をかいている。腹から汗が滴り落ちている。おまけに、若干イレ込みぎみでもある。3頭前のマイネルクラシックは跳ねているけど...馬体重は+1kgで平行線。それより、2番人気ナナヨーウォリアー、3番人気ロバノパンヤはそれぞれ、+12、+14kgで見た目も太い感じ。1番人気ウイングアローは可もなし、不可もなしといった感じで見栄えがする程ではない。地方勢はよくわからないが1枠のスピードラッシュがやる気がありそう。それにしても、ミヤシロブルボンのこの様子では期待が出来ないというのが偽らざる評価である。
あ、やってしまった。2〜3周ほど周回したところでブルボンお決まりのボロをしてしまった。遥か北海道で新井さんは今の光景を見たかしら。新井さんの嘆きの声が聞こえて来そうだった。ところが、ところがウイングアローもロバノパンヤも、やったのだ。ボロを。おかげでパドックはボロだらけとなってしまった。まあ、今回ブルボンは1回だけだったのでよしとしよう。
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パドック(久々の2人引き) |
騎手騎乗を見ていたら、馬場入りを見られないので早めにパドックを切り上げて馬場入り口に陣取る。大塚騎手のにこやかに笑っている顔が印象的。返し馬は気合いが入ってよい雰囲気であった。
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返し馬 | スタート直後、3番手で |
ファンファーレが鳴って、さあレース開始。ミヤシロブルボンは大外枠のため、気合をつけて前へ。1枠1番のスピードラッシュの2番手を追走。おい、おい、今度は先行か?それは前走でやって欲しかった。2,000mを考えると、もう少し後ろの方が良いのでは。前でやりあってたら、絶対もたないよと内心思うが、考えてるうちにドンドンレースは進む。
3コーナを回りかかったところでナナヨーウォリアー(武豊)が仕掛けて来た。連れてウイングアローも上がってくる。それに引き換え、ミヤシロブルボンは最内で足を無くして、どんどん下がっていく。カメラのファインダーで黄色いメンコを探すが、見つけたと思ったら白い帽子。ブルボンは見つからない。ゴール板にファインダーを固定したまま1着が過ぎて、待つことしばらく。やっとブルボンの姿を捉えた。その時点では最下位かと思ったが、後で聞くとブービー。なんだかブービーが定位置になってしまっている。
レースはウイングアローが強い勝ち方でナナヨーウォリアー以下を押さえて2冠を達成。次走11/23の盛岡で3冠達成は間違いないであろう。南井騎手、大喜びである。
さて、お決まりのレース後。遥か遠くから颯爽と1頭が元気良く走ってくる。半分期待しながら良く見れば、黄色いメンコにピンクの帽子。まぎれもなくミヤシロブルボンである。”君、君、ここで1番では意味ないの。レースで1番に帰っておいで(怒)”
レース後、係りの人に連れられてミヤシロブルボンの直前入厩馬房を訪れた。しかし、優勝イベントのどさくさで行くのが遅れてしまい、もう既にブルボンは体を洗って、馬運車に載せられていた。小さな窓から見えるミヤシロブルボンの黄色いメンコと右目にご苦労さんと声を掛けると、見る間に車は発進して美浦へと帰っていってしまった。10月に入って3走、夏からずっと走り続けのミヤシロブルボンにそろそろ休養をあげた方が良いのではと一人考えるのであった。
何とか勝つ喜びを味あわせてやりたいものだ...